「熊野牛玉宝印への信仰」
本稿では、熊野における牛玉宝印頒布のはじまりとその信仰的な意味について論じた。本稿によって、熊野三社における牛玉への押印が一三世紀初頭に梛の葉の授与と大豆の粉による化粧の儀礼とともに行なわれはじめたことが明らかになった。熊野三社の牛玉宝印は、参詣者の道中守護という役割を与えられており、他の寺社の牛玉宝印と性質が異なる。熊野の牛玉宝しるしは、より強力な霊力を持つ牛玉宝印として認識されていたことを指摘した。それだからこそ、起請文の料紙として頻繁に用いられたのである。
『古文書研究』
日本古文書学会
第61号
48
54