本発表の目的は、内村鑑三(1861~1930)の弟子であった斎藤宗次郎(1877~1968)が遺した日記『二荊自叙伝』の記載内容を手掛かりに、無教会主義キリスト教の世界観、空間認識、景観論といった空間論的な思想を歴史地理学的な視点から解明することであった。内村は無教会主義を既存の教会制度や教会組織、儀礼などではなく、それぞれの生活の場における信仰実践を重視した。また、無教会主義は信徒それぞれの生活世界における自身の身体、身体を置く空間、眼前に広がる景観を含むあらゆる空間スケールが相互に重なり合い、聖と俗を超えた宗教思想であり、ムーブメントでもあった。
また、無教会主義キリスト教は近代の日本の言論空間において重要な位置を占めており、キリスト教思想のみならず様々な分野の人々とのつながりが見られた(斎藤宗次郎も中村不折、小山内薫、宮沢賢治といった人々と交流していた)。
本発表では斎藤宗次郎の日常の記録である『二荊自叙伝』の記述を通して、彼の無教会主義キリスト教の受容と信仰実践について検討し、斎藤の生活世界が無教会主義との関わりの中でどのように形成されていったのかを空間論的な視点で読み解いた。