里見弴「かね」論―貨幣莵集と欲望―
里見弴「かね」の改稿課程を踏まえた上で、戦前日本のいわゆる内地・外地を股にかけ、貨幣を無意味に蓄蔵した男の一生を描いた小説を分析した。吃音やコミュニケーション不全を特徴とする男が父の死をきっかけに、貨幣を横領する犯罪を繰り返すようになるが、そこにはマルクスが言うような貨幣へのフェティシズムは見られない。ラカンの精神分析論等を手がかりに、欲望の作動しない貨幣蓄蔵の意味を考察した。
『二松学舎大学論集』
第50号
95
117