太ったシュトラピンスキー―ケラーの『馬子にも衣裳』―
ケラーの散文の一様式、後日談は幾つかのタイプに分けられるが、興味深いのは、それ迄の肯定的な叙述が、イロニーに一転する後日談である。これが最も明瞭に窺えるのが『馬子にも衣裳』。このタイプの物語に共通するのは、主人公が内的に豊かな観念的人物という点である。だが彼等は、社会の中では、己れを外的現実のリズムに合わせねばならない。主観の発露を無理に押さえることが、無数に反復されることで、この種の人間は、普通人以上に俗物化する傾向が強いのではないか。後日談での翻りには、以上の事柄が暗示されている様に思われる。
DERKEIMNr.
東京外国語大学大学院ドイツ語学文学研究会
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