演技者と没落―ケラーの『恋文濫用』―
ノヴェレという文学形式上のジャンルから、ケラーの「恋文濫用」には中心点が欠けている、との否定的な指摘がなされてきた。だが、まさにこれによって、即ち、二組の夫婦を、諷刺やイロニーを織り込み、並置し乍ら描出することによって、作者ケラーの創作の基調である「教育的なものを詩的なものに溶け込ませる」という意向が具現されているのである。
Spuren野村先生退官記念論文集刊行会
三修社