親鸞の妻恵信尼が末娘覚信尼に宛てた書簡『恵信尼文書』をもとに、親鸞の信仰について検討した。本稿では、『恵信尼文書』第五通に記されている親鸞の風邪についての記述をもとに、親鸞が治病のために経典読誦をしたことを指摘した。親鸞は、本来、薬や呪術による治病を否定していた。本稿では、このことは親鸞の師法然の考え方とは異なる親鸞独自のものである点を明らかにした。また、親鸞が風邪によって朦朧としたなか、思わず経典読誦を床の中でしてしまったことについては、天台宗の信仰や貴族社会の常識の影響があることを指摘した。