院政期の多くの歌人との交流が知られ、藤原定家にも多大な影響を与えた中世の代表的な女性歌人の一人・殷富門院大輔は、家集の中で、法華経方便品の偈「若有聞法者 無一不成仏」の十文字を一字ずつ歌頭に詠む十首の詠を残している。
その十首目は、「仏にはならずと言ひて置かれにし我が身ぞ今は嬉しかりける」である。この歌について、森本元子氏『殷富門院大輔集全釈』では「凡夫の身こそ、(そのための勤行をしたと思えば)今となってはまことにうれしいこと」と現代語訳をしている。しかし同集では、女性である作者が日吉神社の石橋を女性